東日本大震災:イノシシ、田畑に穴 「表土はぎ」除染困難に 農家「耕地に戻せない」−−第1原発20キロ圏 /福島
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120924-00000052-mailo-l07
毎日新聞 9月24日(月)11時10分配信
 福島第1原発から20キロ圏とその周辺で、イノシシやサルなどの野生動物が、住民の帰還に暗い影を落としている。特にイノシシは、エサのミミズを求めて田畑に深い穴を掘り散らかし、住宅密集地にも営巣を始めた。農地除染や作付け再開を困難にする恐れもあり市町村は駆除を開始、国も被害調査に乗り出した。【栗田慎一】
 「これでは除草、除染しても、耕地として使えない」。8月下旬、避難先から葛尾村に一時帰宅した農家の松本寿夫さん(77)は愕然(がくぜん)とした。自宅の芝が掘り返され、近くの田んぼは穴ぼこだらけだった。
 背丈ほどもある雑草に覆われた田んぼに分け入ると、深さ10〜20センチ、幅1メートル程度の穴があちこちに。土手も崩れ、さながら原野の様相だ。穴は、イノシシがミミズを探して掘ったり、体についた虫を取り除くために寝転んだりしてできた等身大のものだ。
 花こう岩でできている阿武隈山系は、岩盤の強さから原発立地に向いている。だが、土の層が薄く、農地としては貧困な土地だった。それを農民が100年以上かけて砂や土を少しずつ入れ、厚さ20センチ程度の耕作地を作り上げてきた。これが、農地の除染方法を、深さ30センチの土の上下を入れ替える反転耕ではなく、5センチ程度の表土はぎにする理由だ。
 しかし、イノシシの穴は、表土はぎを困難にするだけでなく、除染できても耕作地として使えなくなる恐れがある。松本さんは「再び元の実りをもたらす耕地にするまで、何十年かかるか分からない」とため息をついた。
 県によると、家畜だった牛やブタが住民避難の際に放置され、家屋被害などが拡大したが、ほぼ全て捕獲して収束した。ところが、今度は野生動物による被害が目立ち始めた。田畑の他、イノシシは風雨をしのぐため住宅街に営巣し始め、サルは民家の戸を開けて家の中を荒らしている。
 このままでは住民帰還に支障を来すとして、南相馬市浪江町葛尾村など6市町村は今春から駆除を開始。猟友会などがわなを仕掛け、8月末までに計150匹以上を捕獲、射殺した。しかし、イノシシは増殖の一途で、「焼け石に水」(葛尾村)の状態だ。
 ミミズは、土を食べるため放射線量が高い。それを食べるイノシシからも高線量が検出されている。死骸処理について、各自治体は、中間貯蔵施設が完成するまで役場敷地内などに仮埋設している。全域が警戒区域となっている富岡町は「人が入れないため、調査すらできず、被害の実態をつかめない」と危機感を募らせている。
 県は国に対し、野生動物による被害の調査を要請した。環境省はこれを受け、除染対象となる家屋の被害調査を始めた。
9月24日朝刊



原発建設再開 矛盾ではなく欺瞞だ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012092402000101.html
2012年9月24日
 「不断の見直し」は、もう始まってしまったのか。政府は「二〇三〇年代原発ゼロ」の看板を書き換えて、原発の建設再開を認めるつもりらしい。新増設なしは基本である。例外は許されない。
 矛盾というより欺瞞(ぎまん)である。何枚、舌があるのだろうか。
 枝野幸男経済産業相は、経産省が工事許可を出した原発に関しては、それを変更する考えはないと、明言した。
 着工済みの原発は、青森県大間町電源開発(Jパワー)が建設中の大間原発(進捗(しんちょく)率37・6%)、青森県東通村東京電力東通原発1号機(9・7%)、そして松江市中国電力島根原発3号機(93・6%)である。
 このうち、福島第一原発事故収拾のめどがつかない東電の東通を除く二基については、東日本大震災で中断していた建設工事の再開を認める方針という。
 「二〇三〇年代に稼働原発ゼロ」は、十四日に政府が決めたエネルギー・環境戦略の看板だ。それを実現するための二本柱が、原発の稼働期間を四十年に厳しく制限すること、そして原発の新増設はしないことではなかったか。
 例えば一〇年代に稼働を始める原発を四十年間運転できるとすれば、五〇年代まで寿命を保つことになる。誰にでもわかる足し算だ。大間と島根は新増設にほかならない。
 雇用を守ることは大切だ。だからといって、政府の大方針を簡単に曲げるというのは情けない。原発や再処理施設に代え、新たな廃炉ビジネスや電源ビジネスの創出を図るのが政治の仕事である。
 そもそも「二〇三〇年代にゼロ」という期限の切り方が極めてあいまいなものであり、意見聴取会などを通じて脱原発を選択した多くの市民の不興を買った。
 使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する核燃料サイクルは、核のごみの排出元である原発の存続が前提になる。そのような“実験”の継続を認めたことも、安全と倫理を求める国民を落胆させた。
 その上、新戦略発表の翌日に、原発ゼロを骨抜きにするような経産相発言が飛び出すとは、国民の過半がゼロという目標に込めた思いを、あまりにも軽んじてはいないだろうか。
 これ以上不信が広がれば、この国の未来に大きな影が差す。民主党内でも異論はある。四十年廃炉、新増設なしの大原則は、例外なく堅持すべきである。



茨城最終処分場候補地に高萩 住民「水源地汚染怖い」
2012年9月28日 07時02分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012092890070239.html
 茨城県高萩市を東西に貫く国道461号を西へと走る。県営の花貫(はなぬき)ダムや紅葉が人気の景勝地・花貫渓谷を通り過ぎると、人家が乏しくなる。中心市街地から十六キロ、隣の常陸太田市まで二キロという人里離れた山間部。最終処分場の候補地となった国有林の林道が右手に見えてくる。
 チェーンが張られた入り口には、「通行止」「立入禁止」と書かれた五種類もの汚れた立て看板が並ぶ。携帯電話の電波は入らない。「水道水源から離れている」という国の調査結果を信じていいのかどうか、林道沿いには清流が注いでいる。トラック一台が通れるほどの狭い林道を三キロ進んだ先を、国は放射性廃棄物を埋め立てる候補地(約一・五ヘクタール)として選んだ。
 周囲に住む人たちの声に耳を傾けると、水への不安が多く聞かれた。主婦(65)は「ここは水源地だし、近くにダムもある。もし水が汚染されたら高萩は全滅しちゃう」。農家の男性(66)は「今年やっとコメ作りを再開できたけど、もう作れなくなるかもしれない。水が駄目になったら、コメ作りは終わりだ」と漏らす。かつて炭鉱の町として栄えたが、現在はめぼしい産業がない人口約三万人の市。高齢化が進み、農業に従事する市民が多いだけに、土地汚染への懸念が余計に強い。
 候補地から北へ約一・五キロの県道沿いには、独力で別荘を建てている日立市の無職男性(63)がいた。購入した土地で数年前からこつこつと大工作業を続け、ほぼ邸宅が完成したという。チャボを飼い、養蜂を営み、豊かな自然に囲まれて暮らそうとしていた中での国の選定に「ここに来るとしたら複雑だ。必要な施設なのかもしれないけど、いい気はしない」とうつむいた。
 高萩市街地に住む人々も不安な思いは変わらない。小さな子どもを抱いて、市役所に来ていた主婦(30)。候補地となったことを告げると、「納得できない。なんで高萩なの。どうやって決まったの。食べ物は大丈夫なの」。質問攻めに、素直な市民感情がにじんでいた。 (永山陽平、成田陽子)
東京新聞